自分で自分をケアしてあげることは、この本から学んだ。必要なのは技術。技術は学びとることができる。
この本では、まず「ムリ」が3つの段階で進行し、その進行を防ぐには第2段階までが勝負であると説く。
この説明は、自分の過去の経験を振り返っても、腑に落ちるものばかりであった。
仕事が立て込んでいて、満足に休息を取ることができなかった頃、なんだか怒りっぽくなっていて、
ささいなことで感情が大きく揺れ動いていた。思えば、これは「別人化の始まり」だったのであろう。
そのときには、何とか第2段階までで踏みとどまって回復し、また第2段階に踏み入れ、ということを繰り返していた。
そうしているうちに、ライフステージの大きな変化(結婚・やむを得ない要因での転職など)がやってきて、ムリ第3段階に進行してしまったのだな、と振り返った。
普通の過労段階: 健康貯金を使いながら、何とか持ちこたえている状態
別人化の始まり: 周囲は「最近ちょっとおかしいよね」と気がつく
別人化: 「心」が変化してくる
(p.19より)
「ムリ」は構造上、気が付きにくい。そこで「ムリ」に気づくための戦略として、軍隊の情報収集の視点を提示しているのは、
自衛隊メンタル教官ならではの視点で、とても興味深かった。
ムリは体(健康)、人間関係、行動、心(感じ方、考え方)に表れる。
ところが、何らかの変化が表れていても、自分なりの理由を付けて納得してしまっている。
すると、変化も変化と認識できない。そこで、軍隊がよく使う情報収集の視点を紹介しよう。
それは、EEI (Essential Element of Information)という考え方。
敵がどのような活動をしているかわからない時、相手の行動を読んで、もしそうならどんな変化が見えるだろうかと予測し、その変化に注目して情報収集するのだ。
(中略)
例えば、「自分は大丈夫、全然疲れてなんかない」と思っている人でも、試しに、「もしかしたらムリが来ている、疲れているかも……」と考えてみる。もしそうなら、どんな変化があるだろうかと想像し(EEIを立てる)、その変化を探してみる。
(中略)
交通事故予防の「予測運転」と同じ原理だ。
(p.56より)
「頑張らない自分」を認めるための価値観の修正トレーニング、静のストレス解消法、など、これからの歩み方を見直すうえで、有用なことがたくさん書いてあった。
ムリで戦線離脱したことをきっかけに、成長する人も多い。
そのような人は、ムリから復帰するときに自分の人生を総括し、より柔軟で大きい価値観を身に付けていく。
(p.29より)
自分も、今回の「戦線離脱」をきっかけに、しなやかな考え方・生き方を身につけていきたいと思う。
自分自身がメンタル不調からの回復のためにカウンセリングを受けていた時期に、並行して読み進めた本。取り組みはじめた当初は、カウンセリングがどういった営みなのかよく分かっておらず、まさにその「醸し出す怪しさ」を感じていたことは否めない。
しかし、このカウンセリングの世界へのガイドブックを手にしながら、自分自身でその営みを体験した今、副題にもある「変化するということ」がその本質であることを身を持って理解できたと思う。カウンセラーさんとの対話を通して自分自身の心に働きかけ、抱えていた心の問題に対処できるようになること。病気から回復するというと、発症前の状態に戻すというイメージを持ちがちだが、そうではない。発症の根本にある問題を見つめ直し、それに対処する術を身につけること。認知のクセに気づき、世界の捉え方を変えていくこと。そうやって生き方を変化させていく営為なのだ。
「つながりが癒す」という言及に深く頷く。今回、自分の心に起こった問題は、転職先で「仲間」と呼べる人のつながりが構築できず孤軍奮闘状態を強いられたことがトリガーのひとつだった。カウンセラーさんとのセッションは、今現在の問題に対処するだけではなく、今後もし問題が再発してしまったとしても話を聞いて協力してくれる人がいる、というセーフティーネットを構築する時間でもある。そういう安心感が得られたことこそが、心のケアになっているとつくづく感じている。
「変化するということ」は「古い物語を終えること」。そこには「心理的な別れ」「喪失があり、孤独がある」。その痛みに持ちこたえ、新しい物語を始めるためには、カウンセラーさんの手助けが必要不可欠だったと思う。
平先生の文章はどれも、しんどい時に沁みわたるあたたかいことばであふれていた。
この本のおかげで「病院行こう」と気軽に考えられたし、休んで身体を回復する時間を持つことができた。
抑うつ状態の時に脳内で起こっていること(脳内ホルモンの働き)が分かりやすく、
「今の自分は、脳内ホルモンがうまく働かず、頭が正常に機能しなくなっているのか。だから色々と調子がおかしくなっていたのか。」と客観的に捉えることができ、安心感を覚えた。
セロトニン(心のブレーキ)
心の安全装置のような存在。低下すると憂鬱、不安、焦燥感が強まります。
ノルアドレナリン(心のアクセル)
心にやる気を灯す存在。低下すると意欲や興味関心が減退します。
ドーパミン(心のエンジン)
心にワクワクを抱かせてくれる存在。低下すると楽しくなくなります。
(p.031より引用)
この3つが重要な役割を持つ神経伝達物質であり、この順番で回復していくのだ、ということが平易に書かれていた。
休職初期、とにかく自分がこの先どうなっていくか不安で仕方なかった。そんな時に、この文章に出会って、大まかにでも回復のプロセスが見えてきたことは、自分にとって大きな力になった。
「本当に強い人とは… 自分の限界を素直に認められる人(p.076)」この言葉を胸に、これからの人生を歩んでいきたい。
40歳の節目、仕事面・私生活での大きな変化が重なり、心身に不調をきたしたことがきっかけで興味を持った1冊。
著者の東畑さんと4名の方々との対談を通して、自分自身の状況を複数の視点で客観視することができた。
ミドル・エイジとは「新しいことを始める物語ではなく、古いことを続けていく物語。」「成長の物語ではなく、停滞の物語。」であり、それは「物語になりにくい物語たち」である。自分自身を振り返ると、不調のトリガーこそ直近の予期せぬ転職(と転職先でアサインされた業務の不適合)であったが、その裏には、ここ数年抱えていた「歳を重ねてなお今の働き方を続けていくことは難しいよな。働き方をシフトしていかなければ。」という漠然とした不安・危機感があったと振り返る。
半ば何かに追い立てられるように、新しい知識を取り込み技術力を高めることに必死だった20代、30代。
それで乗り越えられた課題はたくさんあったし、自分の仕事の幅を広げてくれたことは確かだった。
しかし、そのやり方がずっと通用するわけではない。この先無限に成長していくことはなく、どこかで頭打ちになる。
「カードは出揃っている。そのカードで続けていく。」という尾崎世界観さんの「停滞の物語」。
「自分が思い描く直線的な物語にこだわらずに、外からやってくる物語に揺さぶられることで、その都度折れ線を描いていけばいいじゃないか」という鷲田清一さんの「処方箋」。
自分のこれからの歩み方を見つめ直すヒントが得られたと思う。
長田弘さんの作品との出会いは、書店でタイトルに惹かれて手に取った「人はかつて樹だった」という1冊の詩集だった。
日々忙しく働き心のゆとりが無くなっていた時期。手に取ったその一冊は、帯にある通り「大切なことだけが書かれている詩集」。
そこから、長田さんの詩集やエッセイ集を買い集めるようになった中で出会ったのが、この一冊。長田さんが、海外の詩人・作家たちのゆかりの地を訪ねた旅の紀行集。
「読み終えて終わるのではなく、読み終えたところからはじまる、もう一つの読書がある。そのようなもう一つの読書が、私には旅だった。」
長田さんの文章を通して、「風景の中に遺されている無数の言葉」に耳を澄ませたいと思いな。